:一話目




目の前には人混みが広がっていた。
忙しく足を動かし、すれ違う人々。
立ち止まっている私はまるで、世界に置いていかれているようだった。

どうして私は、ここにいる?

ここにいるのは確かなのに、
此処までどうやって来たのか思い出せ無い。
別に記憶が欠如している訳ではない事は分かる。
私は榊原汐里という名前で、小さい頃の出来事も覚えている。
だが、違和感に気が付く。
記憶が途中までで終わっているのだ。
私の最後の記憶は戦争…
天人を排除しようと人々が立ち上がった攘夷戦争だった。
その戦争に私は仲間と参加し、刀を握った。
私の記憶には攘夷戦争の結末がない。
勝ってもいなかったけれど、負けてもいなかったはず。
それなのにどうして、天人が当たり前のように道を歩いているのか。
もしかして…、
私達は、天人に負けたのか…?
あれだけの、人が、仲間が、攘夷の為に死んでいったのに。

私達は、負けたのか…






現状を確認するために辺りを見回す。
誰も天人が我がもの顔で歩いていても無関心であった。
人々はこの世界を容認してしまったのか
しかし、天人の技術力のおかげで 文明が開化したことも事実であるようだった。
私の記憶にはない機械などが沢山普及している。



……ちょっと待って
攘夷戦争が負けて終わったとして、幕府が天人に乗っ取られていたら…?
戦争に参加していた侍たちは?
きっと天人にとって一番邪魔な存在になる。
私の仲間は?
私の知り合いは?
銀時や小太郎や晋助は?
もしかしたら…もう………
いや、あの3人のことだ…
しぶとく生きてる、きっと

私はそれを信じる。

止まることのない周りの人達は、止まっている私を見ることはなかった。
てっきり、邪魔だと蔑んだ目で見るかと思っていたが…
無関心って…まぁ…
冷たい世の中になったのね…
無意識にため息をついた。



前から歩いてきたおじさんにぶつかりかけた。
おじさんは私を見ていなく、前を向いて歩いている。
当たる、と思った時にはおじさんは私を通り過ぎた。
……通り過ぎた?
確かにおじさんは、私の方へ歩いて来てて 私にぶつかる筈だった。
それなのに、何事もなかったかのように歩いている。
嫌な予感が頭を過る。
嘘だ。絶対。
何かの間違いだ。
側を通り過ぎようとしたおばあさんに話し掛けた。

「すみません、お尋ねしたい事があるのですが…」

おばあさんは私の方を一切見らず、歩み続ける。
泣きそうになった。
けれど。
辻褄は合った。
記憶が途中までで途切れている理由。




「…私が死んで、幽霊…になったからか………」

自分に言い聞かすように呟いた。
流れそうになる涙を我慢して。










「ねぇ、銀時」
「あ?」
「もし私が死んで、幽霊になって銀時の前に出てきたらどうする?」
「は、はぁ??ゆ、幽霊なんて非科学的なモンは、ね、ねェんだよっ」
「だから、もし!!例えばの話だよ!!」
「…まぁ、汐里なんだったら…―――――――――――――。」










懐かしい会話を思い出した。
私の大好きな銀時との話。
例え話してたのに、まさかけ現実になるとはね…
もし、銀時に会えたとしても 銀時に私の姿が見えるとは限らない。
もしかしたら…、私の事も覚えてないかもしれない。
けれど一目でも見ておきたいと思った。
何処にいるかは分からないけれど、適当に歩いてたら見つかるかな?
私は運に任せて歩き始めた。
人混みに流されながら、何処へ行くわけでもなく足を動かす。
運命、ってものは信じてなかった。
神様も仏様も全部信じてなかった。
都合の良い人間だけれども信じてみたくなった。

「…会いたいよ、銀時ィ…」

我慢していた涙が目に溜まり始める。
駄目。泣いちゃ。分かってる。けど!!


――どうして私は幽霊となってまで此処に居るの?


こんなの望んでない。
こんな姿で皆の事なんか見れない。
悲しく虚しくなるだけ。
孤独を感じるだけ。
こんなに辛いなら苦しいなら成仏したかった。
どうして?私はここにいるの?
『成仏出来ないのはこの世に未練があるから』とよく聞く。
私には未練と言う《未》の字も思い浮かばない。
この世の中になんかに未練なんかない。
誰か、私を成仏させてよ…

「誰か私を成仏させてよっ!!!」

瞬間頬を伝う涙。
幽霊でも涙は流せるんだと、自嘲気味に笑う。
幽霊の涙とか気持ち悪。
吐き気がするわ。


よし、成仏するために未練だと思われるものを挙げていこう。
うーん…なんだろ?
死ぬときって何思って死んだんだっけ?
てかどうやって死んだんだっけ??
だめだこりゃ……覚えてないや
兎に角、知り合いに会っていけば何とかなるでしょう。
きっと、そうでしょうそうでしょう。
そうであって頂きたい。
まず手始めに、坂田銀時でも探しましょうか。
あの銀色の天パを。
愛しい銀色を。
流していた涙を拭い、前を向く。
これは成仏するための短い一人旅だ。
私は足を踏み出す。


「汐里…?」


名前を呼ばれ、反射的に声のした方を向くと、そこには求めていた銀色があった。
生前、好きだった坂田銀時がそこに軽く汗をかきながら立っていた。









≪ | ≫

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -